マンション防災に「巨大ポータブル電源」は不要?スマホ充電と冬の暖房に必要な容量を徹底計算

災害対策、張り切りすぎて「巨大な漬物石」を買っていませんか?
「もし明日、首都直下型地震が来て停電したら?」 そう考えた瞬間、Amazonで一番大きくて高そうなポータブル電源をポチりそうになったことはありませんか?
わかります、その気持ち。 「大は小を兼ねる」と言いますし、家族の命を守るなら予算なんてケチっていられない。そう思いますよね。
でも、ちょっと待ってください。 戸建てならともかく、マンション住まいにとって「超大容量」は、必ずしも正義ではないんです。
重すぎて持ち運べない。 大きすぎてクローゼットを占領する。 そして何より、いざという時に放電してしまっていて使えない。
今回は、キャンプをしない「防災専用」として考えるマンション住まいの方へ。 メーカーのカタログ数値に惑わされない、「本当に必要な容量」をスマホと暖房の具体例で計算してみました。
一緒に、あなたのご家庭の「最適解」を見つけていきましょう。
マンション防災における「必要容量」のリアルな計算式

まず、ポータブル電源を選ぶ際によく目にする「Wh(ワットアワー)」という単位。 これ、初心者には本当にわかりにくいですよね。
専門用語解説:Wh(ワットアワー)とは?
Wh(ワットアワー) 電気の「ガソリンタンクの大きさ」だと思ってください。 例えば「1000Wh」なら、消費電力100Wの家電を約10時間動かせる量です(実際は変換ロスがあるのでもう少し減ります)。
では、マンションで停電した際、絶対に確保したいライフラインは何でしょうか。 冷蔵庫?電子レンジ?いいえ、違います。 マンションは気密性が高く、数時間は温度が保たれます。 最優先すべきは「情報の確保(スマホ)」と「冬場の体温維持(暖房)」の2点です。
1. スマホ充電に必要な容量
現代の災害において、スマホのバッテリー切れは「情報の遮断」=「孤立」を意味します。
一般的なスマホのバッテリー容量は約10〜15Wh程度です。 変換ロス(電力を移す際に消えるエネルギー)を考慮して、1回充電するのに約20Wh必要だと仮定しましょう。
【家族4人で3日間停電した場合】
- 1人1日1回フル充電 × 4人 = 4回分
- 4回分 × 3日間 = 12回分
- 12回 × 20Wh = 240Wh
なんと、スマホだけなら「240Wh」あれば家族4人が3日間生き延びられます。 これは、一番小さいエントリーモデルのポータブル電源(約3万円〜)でも十分お釣りがくる計算です。
2. 冬の暖房に必要な容量(ここが落とし穴!)
問題は冬です。 「停電したらセラミックファンヒーターをポータブル電源で動かそう」と考えている方。 残念ながら、それはほぼ不可能です。
一般的なファンヒーターは「1200W」ものパワーを使います。 もし1000Wh(約10万円〜)の大容量バッテリーを持っていても、 1000Wh ÷ 1200W = 0.8時間(約50分) たった50分でバッテリーが空っぽになります。これでは夜を越せません。
【正解は「電気毛布」一択】 ここで登場するのが、省エネの王様「電気毛布」です。 電気毛布の消費電力は「中」設定で約30W〜50W程度。
【電気毛布を2枚、夜間8時間使いたい場合】
- 50W × 2枚 = 100W
- 100W × 8時間 = 800Wh
結論:マンション派の目安はこれだ!
スマホ(240Wh)+ 電気毛布(800Wh)= 合計 1040Wh
もし「冬の停電で、家族で暖を取りながら3日間スマホを使いたい」なら、ここで初めて1000Whクラス(大容量タイプ)が必要になります。
逆に、「布団はたくさんあるから暖房はいらない。スマホとLEDランタンだけつけばいい」というご家庭なら、400Wh〜500Whの中型モデル(約4〜6万円)で十分すぎるほどなのです。
【コラム】バッテリーの「寿命」と「安全性」を見極める
ここで少しマニアックな話をさせてください。 実はポータブル電源選びで、容量以上に大切なのが「電池の種類(化学組成)」です。
数年前までのポータブル電源は「三元系リチウムイオン電池」が主流でした。 これはスマホと同じ種類で、軽くてパワーがある反面、充放電回数が500〜800回程度と少なく、衝撃による発火リスクもゼロではありませんでした。
しかし、ここ1〜2年でトレンドが劇的に変わりました。 今選ぶなら、絶対に「リン酸鉄リチウムイオン電池(LiFePO4)」です。
- 寿命がすごい: 充放電サイクルが3000回以上(毎日使っても10年持つ!)
- 安全性が高い: 結晶構造が強固で、釘を刺しても発火しないと言われるほど熱暴走しにくい。
- 自然放電に強い: 放置していても電気が抜けにくい。
マンションは多くの世帯が暮らす集合住宅です。 万が一の発火事故は絶対に避けなければなりません。 多少重くなっても、安全性の高い「リン酸鉄」採用モデルを選ぶのが、現代のマンション防災のリテラシーと言えるでしょう。
失敗しないための「運用シミュレーション」
ここで、よくある失敗談(という名の、想定されるシナリオ)をお話しします。
【想定シナリオ:Aさんの失敗】 防災意識が高まり、張り切って大容量バッテリーを購入したAさん。 届いたその日に一度充電し、「これで安心」と押し入れの奥へ。 3年後、大型台風で停電が発生。 「今こそ出番だ!」と引っ張り出すも、スイッチが入らない。 完全放電(過放電)で、バッテリーが死んでいたのです……。
ポータブル電源は「買ったら終わり」ではありません。 特にマンション暮らしでキャンプをしない人は、日常で使う機会がないため、この「いざという時に空っぽ問題」に直面します。
これを防ぐための、マンションならではの運用テクニックをご紹介します。
1. 「パススルー充電」でリビングのスタメンにする
「パススルー機能」とは、コンセントと家電の間にポータブル電源を挟んだまま使える機能です。
壁のコンセント → ポータブル電源 → スマホ充電器やWi-Fiルーター
このように繋ぎっぱなしにしておけば、常にバッテリーは満タン。 停電した瞬間にバッテリー駆動に切り替わります(簡易UPS機能付きなら尚良し)。 これなら「しまい込んで忘れる」ことがありません。 デザインが良いモデルを選んで、リビングのサイドテーブルに置いておくのがおすすめです。
2. ベランダ・ソーラー充電は「期待しすぎない」
「ソーラーパネルもセットで買えば永久機関になる?」と思いますよね。 マンションのベランダでは、以下の理由で意外とハードルが高いです。
- 日照時間: 手すりや上の階の庇(ひさし)で影ができやすく、発電効率がガタ落ちする。
- ガラス越し: 窓ガラス越しだと、紫外線カットガラスの影響でほとんど発電しないことが多い。
ソーラーパネルはあくまで「晴れた日の補助」程度に考え、基本は「ACコンセントからの急速充電」の速さを重視して選ぶのが正解です。 最近のモデルなら、1時間で80%まで回復する急速充電タイプが増えています。 台風が来る前にサッと1時間で満タンにできる機動力の方が、マンション防災には重要です。
まとめ:あなたに「巨大バッテリー」は必要か?
最後に、もう一度整理しましょう。 マンション暮らしの防災用ポータブル電源選び、ポイントは以下の3点です。
- 容量の目安:
- スマホ&明かり確保だけなら 400〜500Wh(約4〜6万円)
- 冬場の電気毛布も使いたいなら 1000Wh前後(約10〜12万円)
- 電池の種類:
- 安全と長寿命の 「リン酸鉄リチウムイオン(LiFePO4)」 一択。
- 管理方法:
- 押し入れに入れず、普段使いしながら充電する 「パススルー運用」 を。
「なんとなく不安だから一番大きいのを買う」のではなく、 「我が家は電気毛布を使いたいから1000Wh必要だ」と、理由を持って選ぶ。 そうすれば、無駄な出費も抑えられますし、重すぎて持ち運べないという事態も防げます。
災害時、暗闇の中でスマホの充電マークが増えていく様子を見るだけで、人は驚くほど安心できるものです。 まずはご自身の家族構成と、「寒がりかどうか」を基準に、最適な一台を探してみてください。
あなたのマンションライフに、過不足のない「安心」が備わりますように。










